3663-140502 iTunes Matchで著作権が問題とならない理由
5月2日、とうとうAppleが日本でも「iTunes Match」を開始しました。一部で著作権法上の問題が生じるのではないか、という見解が出されていますが、shioはそう思いません。
- iTunes Matchは日本の著作権法をクリアーしているのか→ http://www.huffingtonpost.jp/kiyoshi-kurihara/itunes-match_b_5257711.html
普段このblogでは法的な話題には触れませんが、この問題に関する友人のFacebook投稿に対してコメントを書いたので、補足して転載します。一言で言えば、「(ユーザーのMac/PC内の)iTunesライブラリーにある楽曲をiOS機器で聴ける」という仕組みはiTunes Match開始前と後とで変わっていないのです。
「MYUTA」の裁判例(東京地裁2007年5月25日判決)が引き合いに出されることが多いですが、MYUTAの場合、従来ユーザー(やau)が実現(提供)していなかったサービスを可能にしてしまった点で、iTunes Matchとは本質的に異なります。いままでユーザーができなかったことをMYUTAというサービスによってできるようにしており、その点において、楽曲を複製した行為主体は個々のユーザーではなく当該サービス提供者である、と見る東京地裁の考え方も成り立ち得ます(shioは賛成しません)。
一方、Appleは元々、ユーザーが「iTunesライブラリーにある楽曲をiOS機器で聴ける」環境を提供しています。2001年1月、まずAppleは、ユーザーがMac/PCのiTunes(というアプリ)にCDから楽曲を入れて聴くことができる仕組みを作りました。同年10月、iTunesに入っている楽曲をiPodや(後の)iPhoneなどのiOS機器に転送して聴くことができる仕組みを作りました。その転送方法は、まずはケーブルによる有線接続で。次にWi-Fiによる無線接続で。
こうしてAppleが提供する「iTunesライブラリーにある楽曲をiOS機器で聴ける」という仕組みを使ってユーザーは、「iTunesライブラリーにある楽曲をiOS機器に転送して聴く」ことができます。それは2001年以来ずっと、ユーザー自身で行うことが可能な仕組みです。
iTunes Match以前からユーザーには、Mac/PCとiPhone等のiOS機器とを接続すれば楽曲ファイルを転送できる法的地位(契約上ないし法律上の地位)があるのです。その根拠は、著作権法30条の「私的使用のための複製」であったり、著作権の消滅(51条以下)であったり、Appleとの契約に基づきiTunes Storeで購入した楽曲を5台のMac/PCと10台のiOS端末で利用可能であったり、いろいろです。根拠はそのように複数ありますが、ともかくユーザーはそういう煩わしいことを考えずにMac/PCのiTunesやiPhone等のiOS機器で音楽を楽しむことができる。
ではiTunes Matchでなにができるか。「iTunesライブラリーにある楽曲をiOS機器で聴ける」こと。従来通りです。iTunes Matchがない時代から実現していること以上のことはできません。iTunes Matchはユーザーができることの範囲を拡大していないのです。「iTunesライブラリーにある楽曲をiOS機器に転送して聴く」というユーザーの行為は、iTunes Matchより以前からできていたことであり、iTunes Matchを使っても、できることは変わっていない。
超〜単純化して言えば、Appleは、Mac/PCとiOS機器とをつなぐケーブルを、iTunes Matchによって長~くしただけ。途中にサーバというバッファを置くことで利便性は増しますが、できることは変わっていない。「iTunesライブラリーにある楽曲をiOS機器で聴ける」のも、すべてをAppleが提供する環境の中で行う、という基本も変わっていない。実際Appleは、iPhoneケーブルひとつとっても、チップを入れて、管理下に置いています。
いままで「(Appleが提供した機材やソフトウェアを使って)ユーザー自身で可能」なことを、iTunes Matchでも同じく「(Appleが提供した機材やソフトウェアを使って)ユーザー自身で可能」なのであり、その範囲も変わっていません。ここがMYUTA事例とは決定的に異なります。
なお、iTunes MatchではユーザーのiTunesライブラリーにある楽曲のうち、iTunes Storeに同じものがある場合には、ユーザーの楽曲ファイルをアップロードせず、iTunes Storeのファイルを提供します。これはユーザーが「私的使用のための複製」をした楽曲ファイルをそれ以上「複製」せず、Appleが保有する正規の楽曲ファイルで置き換えると同時に、iTunes Storeのライセンスの枠内に収めることになります。非正規のファイルを使うユーザーの楽曲を正規のライセンス枠組みに取り込む仕組みです。それがiTunes Matchの年額サービス料3,980円に含まれる。AppleとJASRACがどのような契約をしたか存じませんが、両者間でライセンス料の支払いが生じる契約ならば、楽曲の権利者にとっても歓迎すべき優れた仕組みです。
「クラウドだから」という切り口だけで物事を見ると、本質を見誤ると思います。クラウドの利用によって新たに実現したサービスであれば、固有の法律問題が発生し得るので、その考慮を必要とします。しかしすでにユーザー側で実現している行為にクラウドを併用することによって利便性を増すようなクラウドサービスの場合、ユーザーの行為や結果として得られるものが同じであれば、固有の問題は生じにくい。むしろ、クラウドだからという理由だけで固有の問題が生じることのないように、法解釈や立法を進めるべきだと思います。
写真はシグマ「50mm F1.4 DG HSM」(EOS 6D)で撮影したものです。
このレンズ、本当にすばらしい!!
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