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2008.12.17

1492-081210 「楽問」で法の本質に迫る

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「成蹊大学法学部40周年記念誌」の特集「ゼミはいま」に寄稿した拙文を転載します。

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Ricoh GR Digital 2007

shioゼミ(塩澤ゼミ)──「楽問」で法の本質に迫る
塩澤一洋

「契約したことありますか?」「憲法を1条にしてみよう」「刑法200条の「削除」って条文?」

「shioゼミ」はいつも問いかけから始まる。難問、奇問、愚問、珍問。法律学に初めて足を踏み入れる1年生は、shioが問いかけるさまざまな謎に対して、一所懸命考える。手がかりは条文。条文をあちこち読んで、気づいたことを次々と言葉にしていく。

それに対してshioはすかさず褒める。別の発言を促す。それも褒める。ときに新たな疑問を提示する。次の意見も褒める。

この繰り返しで議論は進展する。いつの間にか条文にもあらかた目を通すことになる。その文言にも注意深くなる。法律が面白くなる。徐々に法が理解されていく。

また、教師から「褒められる」体験の繰り返しによって、学生たちは何を言っても受け止めてもらえる安心感を覚える。やがて躊躇なく発言するようになる。

教えない教師。それがshioだ。実際のところ、教えてしまうのは簡単だし短時間ですむ。しかし、漫然と教わったことなど、翌日には忘れてしまう。一方、自分たちで知恵を絞って考え抜き、言葉化し、褒められたことは、記憶に定着する。仮に忘れても、また考えれば自分で答えにたどり着けるという自信にもつながる。教育とは教えないことなのだ。

その根本にあるのは、「学問は楽しい」「法律学は面白い」というメッセージだ。ひとつひとつ謎が解けていくプロセスをいくつも経験すると、法律学がどんどん面白くなる。他人の意見に耳を傾ける。それと異なる自分の見解を述べる。もっと深い謎に迫りたくなる。また考える。

すると徐々にわかってくるのだ。「唯一絶対の正解など存在しないのだ」と。

このとき、高校・大学受験までの12年間に培われた「正解探し」の呪縛から解放される。学問に正解などない、と気づいたとき、学生は学問の世界の入り口に立ったのだ。

ロジックさえ成立していれば、何を言ってもいい、という楽しさ。他人の意見が自分の意見と異なる楽しさ。謎が解ける楽しさ。それが次の謎につながっている楽しさ。法律が生き生きとした有機体に見えてくる楽しさ。

学問が「楽問」になる瞬間だ。好奇心が喚起され、興味が深まり、考えることも調べることも議論することも楽しくなる。大学が、ゼミの仲間とともに楽問する場になる。

こうなると学生たちは自律を始める。ゼミも学生たちが主体的に運営するようになる。それが、2、3、4年生が合同で実施するshioゼミだ。1年生のゼミと違って、shioはほとんど口を出さない。

毎回、議論のテーマとなる判例や事例問題を学生たちが選ぶ。それに関して、3つの班はそれぞれ図書館等で自主的にサブゼミを行い、班の見解をまとめる。それを2コマ連続で行われる本ゼミで発表する。あとは議論。その司会も毎回学生が立候補して進めていく。こうして学生たちは自立していくのだ。

shioは適宜、議論の軌道修正をしたり、ヒントを提示したり、異なる視点を掲げたり、冗談を言ったり──。基本的に学生たちが進める議論の推移を見守る。そして最後に司会者に促されて、30分ほど、そのテーマの背景や学説、shioの見解などについて解説する。議論の中でよかったところを褒め、問題点があれば改善のアイデアを提供する。ゼミの3時間はあっという間に過ぎ、議論が白熱して時間を延長することもしばしばである。

「学問」とは既存の「学」を」「問」いなおし、真実を発見していくプロセスである。そこでは、異なる意見を尊重することが本質的に重要だ。常識や学説や友人の意見にとらわれることなく、条文を起点として自ら思考し、自らの価値観に照らし、自らの解を求めていく。

ひとりひとりが異なることに価値がある。だから常々、ひとりひとりを互いに尊重する。それがゼミの基盤となる価値観だ。同時にそれは、憲法13条が尊ぶ個人の尊厳をゼミの空気の中にとけ込ませていることに他ならない。

「education」の原義は「引き出す」。個々人を尊重するという本源的哲学の実践によって、個人のチカラを引き出していく場、それがshioゼミである。

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